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最高裁判所第一小法廷 昭和43年(オ)1275号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人世良田進、同石黒竹男の上告理由第一の(一)(二)について。

埼玉県所沢市大字所沢字江戸道西一七四番の七の土地(以下甲地という。)と同番の九の土地(以下乙地という。)は、現在訴外国際観光バス株式会社所有の土地であるが、他人の所有する土地に囲繞されて公路に接しない土地であること、甲地、乙地はいずれも、訴外杉田尚の所有にかかる公道に通ずる同所一七四番の四の土地から分割されたものであること、すなわち、訴外杉田尚は、昭和三三年秋頃右訴外会社に甲地、乙地を売却するにあたつて、一七四番の四の土地からまず甲地と同番の八の土地とを分筆し、さらに同番の八から乙地を分筆して、それぞれ訴外会社に売却したものであること、以上の事実は原審の確定するところである。

右の事実関係のもとで、甲地、乙地は、いずれも、土地の所有者がその土地の一部を譲渡して公路に通じない土地を生じさせた場合にあたるから、民法二一三条二項の適用により、訴外会社は、右分筆買受前一筆であつた残余の土地についてのみ囲繞地通行権を有するにすぎず、したがつて、また上告人国際観光株式会社は、かりに訴外会社から甲地、乙地を借り受け使用していたとしても、右残余の土地について囲繞地通行権を主張するのならばともかく、これと異なる一審判決添付別紙目録記載の(一)、同(二)、同(三)の各地について囲繞地通行権を認める余地はなく、同上告人の請求を排斥した原審の判断は、正当として是認することができる。所論は、甲地、乙地が訴外会社に売却される以前に、すでに分筆されていたというが、一筆の土地が分筆されても、同一人の所有に属する間は袋地を生ずるわけではなく、分筆された一部が他の所有者に帰属するなどして、囲繞地の所有者と異なることによつてはじめて袋地となるのであるから、かりに、所論の経緯があつたとしても、原判決の右判断に違法はなく、論旨は採用しえない。

同第一の(三)について。

原審は、右(一)(二)(三)の各土地の当時の所有者であつた倉片謙吉が、上告人会社に対し普通乗用自動車で右各土地を通行することを承諾したとは認められないというのである。それゆえ、かりに右各土地を上告人会社以外の者が通行に使用していたとしても、それを理由に上告人会社がこれを当然に通行に使用し得る事由とはならないこというまでもなく、したがつて、右各土地について囲繞地通行権を否定した原判決に所論の違法はなく、論旨は採用しえない。

同第二について。

一審判決添付別紙図面表示のM、N、O、P、Q、R、Mの各点を順次直線で結んだ線内の土地(以下丙地という。)、同図面表示のE、ト、ハ、ロ、F、G、H、Eの各点を順次直線で結んだ線内の土地(以下丁地という。)がいずれも、現に倉片謙吉の所有にかかる埼玉県所沢市大字所沢字江戸道西一七四番の一の土地の一部分であること、右一七四番の一は公道に面する土地であること、上告人浅野は、公道に面しない土地である丙地、丁地を右倉片から賃借していること、以上は原審の確定する事実である。ところで、公道に面する一筆の土地の所有者が、その土地のうち公道に面しない部分を他に賃貸し、その残余地を自ら使用している場合には、所有者と賃借人との間において通行に関する別段の特約をしていなかつたときでも、所有者は、賃借人に対し賃貸借契約に基づく賃貸義務の一内容として、右残余地を当該賃貸借契約の目的に応じて通行させる義務があり、したがつて、その賃借地は袋地とはいえない。それゆえ、丙地、丁地は袋地とはいえないから、上告人浅野が、被上告人の所有する前記(一)(二)の各土地につき囲繞地通行権を有しないものといわなければならず、これと同趣旨の原審の判断は正当である。また、上告人浅野と倉片との間で、右(一)(二)の各土地につき黙示的にその通行を認め合意がなされていたとしても、右合意は、第三者である被上告人に対抗しえないとの原審の判断も正当として是認することができる。したがつて、原判決には所論の違法は認められず、論旨は採用しえない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松田二郎 裁判官 入江俊郎 裁判官 長部謹吾 裁判官 岩田 誠 裁判官 大隅健一郎)

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